Stiffのオリジナルインタビュー Vol,2


第1回目 杉原祐史  第2回目 勝又まさる

Masaru Katumata

勝又まさる氏




千葉生まれ、千葉育ちのカスタムボードメーカー「EXCEL」のボードビルダー。4年前の浜名湖がメーカーとしてのサーキットデビュー。高い技術、果てしない研究心、あきらめない根気……それを支えるのはなによりウインドへの熱い情熱だ。一度「EXCEL」に乗った人は、そのあとも「EXCEL」を何本も削る……そんなリピートセイラーも少なくない。


interview/2002.8.8 by J-222
word writing by J-222


「ノリオが乗れば日本一になれる板だ」

 これは、ジャパンサーキットに参戦する某プロライダーの発言である。「ノリオ」とは、現在ジャパンランキング1位=チャンピョンの浅野則夫のことである。エクセルに乗るライダーが自らへりくだってまでこんな台詞を言うボードとは、いったいどんなものなのか?
 また、エクセルのボードに対する高い評価はプロだけにとどまらない。「アンダーにも強い」「風の抜けた場所でもスルスルとプレーニングする」「海が荒れても暴れない」「カービングでも失速しないのでジャイブが上手くなった」
「魔法のボードですね、ズルイっすよ」……これらはエクセルを持つ、あるいはエクセルに試乗したアマチュアのセイラーの言葉だ。ここまで来るのに、7年かかったという。


「最初はボードのリペアをやっていたんですよ。材料・工法・素材など、いろいろ経験を積んで、『これならボードを1本最初から作れるぞっ』と思った。
 そうして作った『初号機』は、まだ倉庫にあるはずですよ」

■出来はどうだったんですか?

 「う〜ん、失敗。ひどかった。『1本丸ごと作れるはず』だって何度もシュミレーションしていたんですが、実際にやってみるとシュミレーションと違う事態がいくつも起き、手順・工程ももっとフクザツだった。スラロームのつもりで作った(実際にアウトラインはスラローム)のに、ウエイブになっちゃった。ロッカーがまずかったんですけどね」

■誰かに師事したとかは?

 「誰も教えてくれないだろ〜な、と思ってた。そんな時、ZIPの石原さんを紹介してもった。最初は、『○○はどうするの』って修理のやりかたを聞く感じで、少しずつノウハウを電話で聞き出していたんだ。でも、ある時『カツマタさん、もう板、作れるでしょ』って言われ、それで、すべてを話して大阪に行ったんだ。あと、雑誌なんかでボード工場の写 真が載るでしょ。するとその1枚の写真を何時間も見てる。ここに置いてある容器はなんのためだ?この工具はなんに使うんだって」

■今まででいちばん苦労したことや辛かったことは?

 「全部。ボード作りは、手の抜きどころがないんですよ。手抜きをすれば、あとで自分に返ってくる。まぐれで出来るイイ板なんてないから、少しずつしか進めない。工法、アウトライン、材料……すべてがね。特に、材料に関しては『ウインドサーフィン専用の材料』なんて存在しないから、いろんなシーンから持ってきて、それをトライ&エラー。今では、その引き出しの多さは自慢できます」

 ここで私は発明王エジソンを想起した。世界で初めて電球を発明したエジソンは、フィラメントの素材を見つけるまで、世界中から数百種類の素材を試したと言われる(そこには日本製の竹も入っていたとか)。ボード作りの現場は、発明・発見の最先端でもあるのか……。企業秘密のため具体的な名称は証せないが、「えっ、そんな素材を」というものにまで手を伸ばしている。ああ、誰かにしゃべってしまいたい。
 ボードの形を削り出すスチロール材にしても、ホームセンターで買えるスチロールなんかとは違う。それをシェイプして「巻き」を入れる。「巻き」とは削ったスチロールの曲面に、比較的硬度のある素材(カーボン繊維だとかいろいろ)を密着させることだ。ここでバキューム工法というのが用いられるが、ようするに布団圧縮袋みたいな理屈である。

 「バキューム室はどこの工場も見せてくれないですよ(ちなみにエクセルのバキューム室にも立入禁止の札が貼ってある)。シェイプはアートみたいなもんで、マネできない。でもバキュームは技術だからマネできるわけです。しかも、それによってボードのクォリティは格段に違ってくる。せっかくキレイにシェイプしても『巻き』でボコボコになっちゃうこともある」

■カスタムボードは壊れやすいっていう感想もありますよね。

 「選手が乗るボードは、軽量化のため本当に最低限の補強しかしてないので、それはそうでしょう。でも、一般の方からのオーダーの場合は、その人の技量や希望と相談し、それなりの補強はします。カスタムは壊れやすいっていうけど、逆に、プロダクションボードは外殻を丈夫に作っているぶん、知らないうちに中身がグチャグチャ、っていうこともあるんですよ」


マウイで大男に囲まれ、「Ecxel、What?……」

 店長のマウイ合宿の時の話である。店長が浜に道具を置いていたら、そのボードを地元の大男たちが取り囲んでいる。海で店長に追い抜かれた地元のスピード自慢たちである。あのチビで(店長ゴメン)速い日本人が乗っている見慣れないボードはなんなのだ?「ECXEL、ホワット?……」。
 店長のマウイレポートではあまり語られていないが、彼はエクセルを駆り、ハワイアンをかなりごぼう抜きしてきたらしい。大男に囲まれたボードを見て、店長はしばらく自分の道具に近づけなかったとか。

■ボードを量産してもっとたくさん売りたいとは思わないんですか?

 「やってみたいですよ。でも、お金がかかる。それに、自分がやりたいのは、「売れる板=流行している板」を作ることより『速い板、勝てる板』を作ることなんです。量産はできないけど、今は一本ずつ全部自分で面倒見られる。名前は出せないけど、有名な元ワールドカッパーがエクセルの工場に来たことがあります。板を作って欲しいって。その時、彼に『おまえひとりでやるのがグッド・システムだ』と言われました」


 最新の最速のボードは量産できないものなのだろうか? 以前、あるライダーにこう言われたことがあるそうだ。

 
「まさるさん、○○のボード買ってきてマネしてください」

 
その時の彼の答えはこうだ。

 
「採寸するだけならしてもイイ。でもそれで最速のものはできない。なぜなら、その○○を作った人間は、オレが採寸した時点で、すでに先に進んでいるから。それも確実に」

 
なんでもイチバン先頭を行く、あるいはそれを目指すということは大変なことなのだ。己のこれまでの道のりを信じ、誰の足跡もない荒野を踏み分けなければならない。


■日本一、あるいは世界一になりたいと思ったことはないのか?

 「そりゃ、ありますよ。日本一、獲ってみたいですね」

■今、エクセルのボードを、誰にイチバン乗って欲しいですか?

 「ノリオ(浅野則夫)をやっつけられるヤツ」

■それは誰?

 「だから、ノリオ(浅野則夫)をやっつけられるヤツ」

 知りたい。で、いろいろ誘導尋問をかけてみた。そ〜かぁ、その人かぁ。でも、ここではあかせない。読んでいる人、ごめんなさい。
 最後に、近年リリースされた人気モデル、「ウップス」について聞いてみた。

 「このボード(ウップス)は選手の意見がまったく入っていないんです。とにかく、誰が乗っても楽しくて速いボードが作りたかった。細かいことは気にせず、ガンガンとプレーニングして気持ちよくカービングする。それも競技レベルのシビアさではなく、とっても気軽に。フリースタイルのボードに乗って、技もできず、沖と浜とを行って帰って、という人を見てて『面白いのかな』と感じることがあるが、そんな人には是非ためして欲しい。アップウインドのボードの行方を追うこともできるし、サーマルでのハイスピードクルージングも楽しい。ボリュームも日本でイチバン多い風域にマッチしていると思います」

 「ウップス」=oops にはコンピユータ用語で「オブジェクト指向プログラミングシステム」という意味もあるが、「おっと!」「しまった!」という意味もある。乗る人も見る人もちょっとビックリするボードであろう。
 



 インタビューをまとめるに当たって……正直に告白すると、今回の記事はとてもまとめづらかった。なぜなら、企業秘密に関わる部分や業界の裏話なんかもたくさんあって、書けないことがたくさんあったのだ。それをガマンするのに苦労した。
 開発ボードそれぞれに名前をつけている時期があったそうだ。アンジェリーナとかボビーとかキャサリンとか。当時、ライダーだった杉原祐史選手は、それを口にするのが恥ずかしくって「それだけはやめてください」と、泣きを入れたとか。まあ、このくらいのエピソードならイイよね。かわいいから……J-222記